国家論 (岩波文庫)

国家論 (岩波文庫)

「国ってなんだろうなぁ」とぼんやり考えているとき目について衝動買い。望んでいたものとはちょっと違ったが、これはこれでなかなかおもしろかった。


内容は君主国家、貴族国家、民主国家のそれぞれが最善の状態を維持するにはいかに組織されるべきかということが、具体的な規定とそれに対する解説という形で記述されている。


国家が上記3形態のうちどの形態を取るにせよ統治権を握るのは人間であり、その人間は理性ではなく感情や私利私欲で動くものだとスピノザは説く。
一見して性悪説の考え方に近いように思うが、そうした人間の本質を抑制するのではなく、統治権を持つ人間が感情や私利私欲で行動しても問題がおきないような、さらには一歩進んでそのような行動が民衆の利益につながるような枠組みの構築、ということがこの本の一貫した考え方だ。


しかし民主国家ならいざしらず、中世の君主国家でそのように民衆の利益を重んじる国などあったのだろうか?所詮絵に描いた餅ではなかろうか?
そんな疑問が当然浮んでくるが本書はそれに対してアラゴン人の国家という具体例で答えてくれている。アラゴン人の王ドン・ペドロは次のようにいったとされる(p.114)
「現在および今後、彼ら(臣民)は彼らを損なうような政治をしようとするあらゆる暴力に対して武器を執ることができる。このような政治をする者がたとえ王自身、あるいは未来の王位継承者である場合でも同断である」
そういう国もあったんだなと目から鱗が落ちた。


本書が定めている規定は当時の状況に則したものであるためそのまま現代にあてはめることは到底不可能だが、その規定が定められる背景の部分は現代にも通じる部分が多く興味深かった。
ただ残念なのは執筆途中に作者が死去してしまったため、民主国家についてはほんの数節しか語られていないことだ。
そのおかげというと変だが薄くて読みやすい本だった。